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 フーダニット翻訳倶楽部のブログです。倶楽部からのお知らせ、新刊情報などを紹介します。  トラックバックとコメントは今のところできません。ご了承ください。  ご連絡は trans_whod☆yahoo(メール送信の際に☆の部分を@に変更してください)まで。お返事遅くなるかもしれませんが、あしからずご了承ください。お急ぎの方はTwitter @usagido まで。
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             月刊 海外ミステリ通信
          第5号 2002年1月号(毎月15日配信)
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★今月号の内容★
〈新春特別企画〉    2001年フーダニット・ベスト10発表!
〈座談会〉       フーダニット・ベスト10で2001年のミステリを振り返る
〈注目の邦訳新刊〉   『さらば、愛しき鉤爪』

(今月は、年末年始休暇をはさんだため、特別編成でお届けします)


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 ■新春特別企画 ―― 2001年フーダニット・ベスト10発表!

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 フーダニット翻訳倶楽部では、年末に恒例の年間ベスト・ミステリの投票を行いま
した。対象は、2000年12月1日から2001年10月31日までに刊行された作品です。投票
者は各自10作品まで選ぶことができ、それぞれ1位10点……10位1点で集計したもの
が得票数となっています。
 有名な宝島社の「このミステリーがすごい!」や週刊文春の「傑作ミステリーベス
ト10」などでベスト10に入っている話題作もありますが、フーダニット翻訳倶楽部会
員のあいだに根強いファンのいるシリーズものが強く、一つのジャンルに投票が偏っ
ていないのが特徴です。
 さて、あなたのお気に入りの作品は入っていますか?


1.『愛しき者はすべて去りゆく』 99票
  デニス・レヘイン/鎌田三平訳/角川文庫
  ――行方不明の少女を探すパトリックとアンジーが直面した皮肉な現実は、ふた
  りに新たな試練をもたらした。シリーズ最高傑作との呼び声も高い逸品。

2.『撃て、そして叫べ』 45票
  ダグラス・E・ウィンター/金子浩訳/講談社文庫
  ――銃密売組織がNYの闇市場で企てた大取引に仕掛けられていた罠とは……?
  ホテルで、教会で、激しい銃撃戦のなかに浮かび上がる米国の暗黒社会。

3.『頭蓋骨のマントラ』 40票
  エリオット・パティスン/三川基好訳/ハヤカワ文庫
  ――強制収容所の作業現場で首なし死体が発見され、囚人である元刑事が捜査を
  命じられた。現代チベットの現実と信仰の力を描いたMWA最優秀新人賞受賞作。

4.『斧』 29票
  ドナルド・E・ウェストレイク/木村二郎訳/文春文庫
  ――リストラされたバークは、再就職のライヴァルとなる人間を皆殺しにする計
  画を立てたが……。ドートマンダー・シリーズの作者が描くノワール。

5.『夜のフロスト』 27票
  R・D・ウィングフィールド/芹澤恵訳/創元推理文庫
  ――あのフロスト警部が帰ってきた。デントン署で猛威をふるうインフルエンザ
  だって下品パワーでシャットアウト、きょうもわが道を驀進中。

5.『堕天使は地獄へ飛ぶ』 27票
  マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/扶桑社
  ――欲望と思惑がうずまく「天使の街」で、正義を貫こうとする刑事ボッシュ。
  ロス暴動の再燃から街を守れ! シリーズ随一のノンストップ・ミステリ。

7.『ミスティック・リバー』 26票
  デニス・ルヘイン/加賀山卓朗訳/早川書房
  ――少年のころ共に遊んだ3人の運命の糸が25年後にふたたび絡み合ったとき、
  彼らを待っていたものとは? ルヘインが渾身を込めた初のシリーズ外作品。

8.『永遠に去りぬ』 24票
  ロバート・ゴダード/伏見威蕃訳/創元推理文庫
  ――夏の黄昏どき、静謐な山道で出会ったひとりの美しい女性。まさか彼女が惨
  い二重殺人の被害者になるとは……。静かに進む物語のあっと驚く結末。

8.『ビッグ・トラブル』 24票
  デイヴ・バリー/東江一紀訳/新潮文庫
  ――山のような数の登場人物とどこまでも脱線しつづける話に翻弄されつつも、
  笑いがとまらない痛快ストーリー。電車のなかで読まないでください。

10. 『けちんぼフレッドを探せ!』 21票
  ジャネット・イヴァノヴィッチ/細美遙子訳/扶桑社ミステリー
  ――世界一カッコ悪い賞金稼ぎのステファニー。行方不明のフレッドおじさんを
  探すのはいいけれど……。今回も行く先々で騒動を巻き起こす。

11.『騙し絵の檻』 20票
  ジル・マゴーン/中村有希訳/創元推理文庫
12.『神は銃弾』 17票
  ボストン・テラン/田口俊樹訳/文春文庫
12.『心の砕ける音』 17票
  トマス・H・クック/村松潔訳/文春文庫
14.『トード島の騒動』 16票
  カール・ハイアセン/佐々田雅子訳/扶桑社ミステリー
15.『パーフェクト・ゲーム』 15票
  ハーラン・コーベン/中津悠訳/ハヤカワ文庫
16.『夜はわが友』 14票
  エドワード・D・ホック/木村二郎訳/創元推理文庫
16.『凍りつく心臓』 14票
  ウィリアム・K・クルーガー/野口百合子訳/講談社文庫
18.『学寮祭の夜』 13票
  ドロシー・L・セイヤーズ/浅羽莢子訳/創元推理文庫
19.『ジャンピング・ジェニイ』 11票
  アントニイ・バークリー/狩野一郎訳/国書刊行会
20.『紙の迷宮』 10票
  デイヴィッド・リス/松下祥子訳/ハヤカワ文庫
20.『巨匠の選択』 10票
  ローレンス・ブロック編/田口俊樹・他訳/ハヤカワ・ミステリ

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 ■座談会 ―― フーダニット・ベスト10で2001年のミステリを振り返る

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 2001年12月某日、大のミステリ好きを自認するフーダニット翻訳倶楽部の会員8人
が集結。21世紀最初のフーダニット・ベスト10について語り合った。本格、コージー、
ノワール、ハードボイルドと、得意分野はそれぞれちがってもミステリを愛する気持
ちは同じ。はてさて、どんな話が飛び出すことやら。

●暗い世の中を笑いとばすならこの2冊

朋:まずは10位の『けちんぼフレッドを探せ』からいきましょうか。ジャネット・イ
ヴァノヴィッチのステファニー・プラム・シリーズ5作目ですね。
蘭:『けちんぼ~』は原書で読みましたが、どんな筋だったか記憶が……(笑)。
朋:わたしも本筋の事件はよく覚えてません(笑)。高級車をこれでもかと壊しまく
ってたのが強烈に印象に残ってます。
姫:あの思わせぶりなラストがにくい。あのあとどうなるのか気になって気になって、
原書で続きを読んじゃった。それも3日で!
林檎:ふうん、そうやってみんなハマっていくんですね。連載マンガみたいなものか
な。
朋:本筋を忘れた自分を正当化するわけじゃないですけど、あれはキャラクターと脇
筋で読ませるシリーズだと思います。
蜜柑:うん、最初にキャラクターありきって感じのシリーズだ。
林檎:でもなにか賞をとってますよね。ええと(と調べる)、1997年に『モーおじさ
んの失踪』でシルヴァーダガーを受賞してます。
一同:ええ~、驚き!
林檎:このシリーズ、読んだことないけど興味はあるんです。読んだ人みんな、口を
そろえておもしろいっていいますものね。
朋:お次はデイヴ・バリーの『ビッグ・トラブル』。ゴダードと同率8位でした。
蜜柑:とにかく爆笑。まともにミステリの筋だけ考えてたら、あんな奇想天外なスト
ーリーは思いつかない。
林檎:きょう、冒頭の「謝辞と警告」を立ち読みしました。おかしかったです。
朋:訳者あとがきも笑えます。
林檎:遊んでますね、東江さん。
蘭:今年は、ハイアセンといいバリーといい、フロリダ系がおもしろかったです。
林檎:バリーとハイアセンは仲がいいらしいですよ。「謝辞と警告」に出てきてます。
蜜柑:類は友を呼ぶ(爆笑)。
林檎:聞くところによるとヒキガエルが出てくるそうですが、どんなキャラクターな
んでしょう?
蜜柑:ああ、にらめっこのヒキガエルね。主要登場人物(?)の中でいちばん小さい
けど、インパクトは思いっきり大きい。
蘭:動物といえば犬も大活躍します。
朋:あの犬いいですね、最高。
林檎:ええっ、犬が活躍するの? だったら絶対読みますよ。犬好きだもの。
蜜柑:水鉄砲から最後には核爆弾まで登場して、しっちゃかめっちゃか。
姫:とにかくはちゃめちゃでおもしろい。
朋:いったいどう辻褄あわせるんだって、途中で心配になりますね。
蜜柑:あれで最後はちゃんと収まるところがすごい。フロリダ系の特徴かも(笑)。

●じっくり味わいたい向きにおすすめ――ゴダードとルヘイン

朋:もうひとつの8位にいきましょうか。ロバート・ゴダードの『永遠に去りぬ』で
す。内容もさることながら訳も話題になった作品ですね。
林檎:ゴダード党員のわたしには大満足の1冊でした。主人公と死んだ女性の一家の
かかわり方は現実にはありえないけど、一種のファンタジーって感じで読みました。
蜜柑:冒頭の女性との出会いのシーンなんて、まさに夢の中のよう。
林檎:いままでのゴダードは、女性を“夢の女性”みたいに描くことが多かったと思
うんですが、『永遠に~』の長女は地に足がついてる感じがしました。
朋:“夢の女性”というのはわかるなあ。『一瞬の光の中で』もそんな感じでしたね。
蜜柑:そうだったねえ。あの女性をどうしても忘れられなくてという物語だった。
林檎:『千尋の闇』もそうですよ。あ、ということは、それがゴダードのパターンな
のか。
姫:わたし、ゴダードを読んだことないの。長いから尻込みしちゃって。
林檎:長いけどつかみはすごいですよ。たとえば、日本で最初に話題になった『蒼穹
のかなたへ』。最初はだるいけど、100ページを過ぎたあたりからぐいぐいと引きつ
け、最後にぐわーんときます。ゴダードを読んでると寝るのを忘れます。
朋:翻訳がまとまって出たせいで読むのがたいへん。複数の訳者さんで複数の出版社
から次々と出たでしょう?
蜜柑:たしかにどっと出たという印象だね。
朋:7位はデニス・ルヘインの『ミスティック・リバー』。「このミス」や週刊文春
のベスト10でも高く評価された作品です。
林檎:まだ50ページくらいしか読んでませんが、力を抜かない作家だなという印象で
す。
蜜柑:ルヘインの“物語をえぐる力”がいかんなく発揮された作品と思う。
朋:シリーズものとは雰囲気がちがいますか?
蜜柑:うん、ちがう。といっても、れっきとしたミステリだし、謎解きもちゃんとあ
る。ルヘインがまじめな部分だけを追求するとこうなる、とでもいえばいいのかな。
林檎:それは遊びがないってことですか? たとえばパトリックのシリーズだと、ふ
っとアンジーを見て、「女はなんでTシャツをこんなにきれいに着られるんだ」とか、
そんな余計なことを考えたりしますよね。
蜜柑:そういう“陽”の描写がなくて、ひたすら“陰”の部分を追い求めてるのよ。
林檎:パトリックとアンジーは、お互いにはげまし合ったりもするでしょう? そう
いう細部の救いがない話はつらいなあ。
蜜柑:パトリックのシリーズを読んでなかったら、わたしももっと評価したんだけど。

●シリーズ最高傑作との呼び声も高いが……

朋:5位も2作品ありますが、まずはマイクル・コナリーの『堕天使は地獄へ飛ぶ』
からコメントをお願いします。投票者の数が少ないわりには上位に食い込みました。
林檎:ああ、気の毒なコナリー。よそのベスト10ではまったくふるってません。
朋:最高傑作なんですけどねえ。
蜜柑:あんなおもしろい話なのに。
蘭:まだ読んでません。だって、シリーズは順番に読まないとおもしろくないってい
うから。
林檎:そうそう。シリーズをちゃんと追っていこうと思うと、手を出しにくいですね。
姫:すごくよかったけど、投票しなかった。子どもがかわいそうだったから。
蜜柑:たしかに少女殺害というモチーフはつらいけど、ストーリーテリングが最高。
林檎:読めばこんなおもしろい作家はいないと思うんですよ。シリーズ外作品の『わ
が心臓の痛み』なんか、読む人みんな高く評価してますもん。
蘭:『わが心臓~』はほんとにおもしろかったです!
蜜柑:でも、『わが心臓~』より『堕天使~』のほうがもっとおもしろいのよ。
林檎:ええっ! ほんとですか? もう、絶対読みます。
蜜柑:こんなにおもしろいのに、どうして地味なんだろう。
林檎:単行本で出たせいで買い控えた人が多いのかもしれませんね。
真冬:そもそも、文庫をおもに読む人って単行本の棚をあんまり見ないんじゃないか
しら。作家別に特集して並べるとか、書店のほうでも工夫してくれるといいのに。
朋:地方に住んでいると扶桑社の本は手に入りにくいんですよ。それもネックになっ
てるかも。
姫:同感。うちのほうもおいてなくて、都会に出ないと買えない。

●あいかわらずお下劣パワー炸裂のフロスト

朋:ではお待ちかね、同じく5位の『夜のフロスト』にいきましょう。お下劣おやじ、
フロスト警部シリーズ第3弾です。
蜜柑:下品なままでいてくれてありがとう、警部(笑)。
朋:票は入れなかったけどわたしも好きです。原書を読んでたぶん、訳書のインパク
トが弱かった。
姫:このシリーズは読んでないの。読むのがこわい。ハマったらどうしようって不安。
若菜:あんなに下品なのに同僚には愛されてるのが不思議。
蜜柑:人間味あふれるおやじだものね。
林檎:誰より先に現場に走るってのは信頼されますよ。たとえ下品でも。
朋:となりの課の課長さんなら見ていて楽しい。直属の上司だと嫌かも。
林檎:でも、そばを通り過ぎるときなんか気をつけないといけませんね(笑)。
蜜柑:おもしろいとはいっても扱われる事件は悲惨。あの下品ギャグのおかげで楽し
く読んじゃうけど。
林檎:そうそう、こんなにグロに書く人だったかと驚きました。ランズデールとタメ
をはる死体の描写。
若菜:ストーリーはおもしろいけどワンパターンな気もする。印象に残りにくい。
林檎:たしかにワンパターンですね。ただ、あれだけいろんな事件を同時に発生させ
るのはすごいと思います。で、推理はめちゃめちゃでしょう(笑)。そこがいい。
若菜:あはは、たしかにフロストってぜんぜん推理してないよねえ。
蜜柑:モジュラー型ってまさにこういうことだなと思う。
浅葱:ほんとうにまとまるんかって余計な心配をしたりして。
蜜柑:類書が他に見あたらないという点でフロストのシリーズは抜きんでてる。
朋:それになかなか次が出ないというのもミソですね。
若菜:さんざん待たされたあげくに出るから、ついつい評価は高くなる。
朋:それでは4位、ドナルド・E・ウェストレイクの『斧』です。これだけ景気が悪
いと、勤め人には笑い話じゃすまされない内容でしたね。
姫:現実味がありすぎちゃって。
若菜:すごく好き。発想がユニークでよかった。
蜜柑:いつのまにか主人公を応援している自分に気づいてぞっとした。今度はうまく
やれ(殺れ)よ~と(笑)。
林檎:わたし、読み方がまじめすぎたかもしれません。細部にいろいろ仕掛けがある
でしょう? あれをおもしろがればよかったんだなと、いまごろ気がつきました。
朋:なにがあんなに読み手を惹きつけるんでしょう?
姫:考えたらわからないけど、とにかく読んでいて楽しかった。
林檎:アイデアも勝ちだけど、構成のおもしろさじゃないでしょうか。
蜜柑:そうそう、やっぱりウェストレイクはそのあたりがうまいよね。
林檎:似たような雰囲気の未訳作品がまだあるそうですが。"HOOK" でしたっけ?
朋:あ、それ、いま手元にあります。スランプになった売れっ子作家が売れない作家
に儲け話を持ちかけるが、それにはもちろん罠があって……という話らしいです。

●健闘した新人作家ふたり

朋:3位は『頭蓋骨のマントラ』。エリオット・パティスンという新人作家の作品で
す。意外といっては失礼だけど、かなり健闘しましたね。
姫:主人公の神秘体験のシーンに感動した。
若菜:読んだときは、これが今年の1位だと思った。そのくらいよかった。
蜜柑:テーマが重そうなので敬遠してたけど、読んでみるとすんなり世界に入ること
ができた。
姫:登場人物の名前を覚えるのが大変。
朋:すぐ読み方を忘れる(笑)。
若菜:作者はたくさん勉強してるよねえ。中国のこと、チベット仏教のことなどいろ
いろと。
朋:そういうエキゾチックなところが欧米人受けしたのかもしれませんね。
林檎:ミステリ的にはどうなんでしょう?
朋:なかなかしっかり探偵してます。
蜜柑:さすが、もと敏腕刑事って感じ。
朋:でも、その敏腕があだとなって、強制収容所に入れられているという設定なんで
す。
蜜柑:それで自暴自棄になって人生を投げようとしたときに、宗教に出会った。
林檎:それはたしかにふつうのミステリにはない設定かも。
若菜:ラストがさわやかなのがいい。続編も読みたいと思わせる内容だった。
朋:2位の『撃て、そして叫べ』はいかがでしょうか? こちらも新人作家といって
いいでしょうね。
林檎:これが上位に入ってるのが、フーダ・ベスト10の特徴です。ほかのベスト10で
は、ほとんど上位にあがってません。
若菜:本来、わたしの守備範囲じゃないけどおもしろかった。語り口がいい。
朋:スピード感があって、なおかつきちんと人間を描いてる作品だと思います。
姫:タランティーノの映画を彷彿とさせる。
蜜柑:武器が云々の話として語られがちだけど、友情を描いた部分が好き。それに、
あのどんでん返し。ミステリ的にもよし。
姫:ラストは、おもわず拍手しちゃった。
若菜:泣けるよねえ。
林檎:死人が多いという意見もありますよね。でも、やくざ映画も死人は多いけど、
あまりリアルな感じがしない。それと似てる気がします。ってことはこれも任侠映画
なのか。
蜜柑:任侠。いえてるかも(笑)。
林檎:遠ざかっていく電車に向かって撃つシーンが最高によかったです。

●フーダニット一番人気はやっぱりこの作品

朋:さて、ようやく1位です。デニス・レヘインの『愛しき者はすべて去りゆく』。
フーダのベスト10では2位以下を大きく引き離し、ダントツの1位でした。
林檎:よそのベスト10では低迷してますが。
蘭:『ミスティック~』に票をとられちゃったんでしょうか。すごくいいのに。
浅葱:結末は悲しかったけど。
蜜柑:ストーリーがいいのはもちろんだけど、フーダにはレヘインの読者が多いから、
1位になるのは当然といえば当然。
浅葱:そうそう、わたしでさえ読んでるもの(笑)。
蜜柑:あの結末、パトリックのばかぁといいたい。なんでそこで急に厳しくなるんだ
よと思った。
浅葱:同感。あのあと、どうなっちゃうのかと気になる。
林檎:あの話はけっして他人事ではありませんよね。探偵小説では、事件と自分との
間に距離をおくものだけど、この作品はもろにかぶってます。だから一段と重い。
蜜柑:最近は日本でも似たような事件が多いので、よけいにずしりとくる。
真冬:児童虐待の話なの?
蜜柑:子どもをほったらかしにする若い母親が出てくるのよ。
林檎:いわゆるネグレクトです。身体的虐待ではないけど心理的な虐待。
朋:シリーズ3作目の『穢れし者に祝福を』も今回のベスト10の対象でしたが。
浅葱:『穢れし者~』はブッバが活躍しないんだもん。
朋:おつとめ中でしたからねえ。次作の "PRAYERS FOR RAIN" はブッバが大活躍する
そうですよ。
姫:ブッバがかっこいいなら、読まなくても1位に入れちゃう(笑)。
朋:ブッバのファンは多いですね。
林檎:ブッバ好きだあ。うちにも来てほしい。
蘭:おともだちにしたい。
朋:話はつきませんが、ベスト10談義はこのへんでおひらきにいたします。2002年も
おもしろいミステリにたくさん出会えますように。
                            (構成 山本さやか)

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 ■注目の邦訳新刊レビュー ――『さらば、愛しき鉤爪』

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『さらば、愛しき鉤爪』"ANONYMOUS REX"
 エリック・ガルシア/酒井昭伸訳
 ヴィレッジブックス(ソニー・マガジンズ)/2001.11.20発行 860円(税別)
 ISBN: 4-7897-1769-0

《探偵小説界に新風――鉤爪の私立探偵デビュー》

 お正月を「このミス」三昧で過ごされたミステリファンのみなさん、明けましてお
めでとうございます。「このミス」の豪華なおせちにちょっと食傷気味かな、とお感
じのみなさんへ、今月は箸休めの作品を一品、お届けします。
 作者のエリック・ガルシアは1973年マイアミ生まれ。1999年、26歳の時にこの作品
でデビューした彼は、ミステリ史上はじめての個性派私立探偵をこの世に生み出した。
LAに探偵事務所を構える主人公のヴィンセント・ルビオ、大きな声では言えないが
――どうしようかな、言わない方がいいかなあ、でも本の表紙ではっきりそれとわか
るしなあ、ええい、ままよ――実は、恐竜なんである。いやいや、冗談ではない。本
当だってば!
「ヴィンセント・ルビオというんだ。私立探偵でね。奥さんに頼まれて、身辺調査を
させてもらってる。おれがあんただったら、ミスター・オームスマイヤー、さっそく
離婚訴訟専門の優秀な弁護士をさがしにかかるぜ」――といったあんばいでトレンチ
コートに帽子をちょこんとかぶり、火のついていないたばこ(恐竜はたばこを吸わな
い)をくわえ、離婚訴訟の証拠集めや、大手探偵事務所の下請け調査をしている我ら
がルビオ、本当に恐竜なのである。正真正銘のヴェロキラプトゥルだ。ただし、進化
の過程でヒト大に小型化した16種類の恐竜たちは、ヒト前では〈ポリスーツ〉と呼ば
れるヒトの姿をかたどった扮装を身にまとっている。そんな訳で、地球全体で10%ち
ょっとを占める恐竜の存在に、ヒトはまったく気づいていない。そのために恐竜たち
はそれはそれは大変な努力を払っているのだが、これがまた笑わせてくれるのだ。
 さて、そんなルビオが大手探偵事務所の依頼で、ナイトクラブ火災の原因調査に乗
り出した。おっとここまできて紙幅が尽きた。とにかくどれが恐竜でだれがヒトか、
ヒト気がないとなれば〈ポリスーツ〉を脱ぎ捨てて恐竜同士で大暴れ。これで、おも
しろくないはずがない。おまけといっちゃあなんだけど、いやに官能的なベッド・シ
ーンだって用意されている。えっ? どっちのだって? だめ。福袋の中身は教えら
れない。さあ、買った、買った!
                                (板村英樹)

―――――――――――――――――――――――――――――――――
■編集後記■
 あけましておめでとうございます。フーダニット・ベスト10に投票するため、先月
は未読ミステリの山に突撃! 残念ながら読み切れずに年越しした新刊もありました
が……。今年も『海外ミステリ通信』をどうぞよろしくお願いいたします。 (片)


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 海外ミステリ通信 第5号 2002年1月号
 発 行:フーダニット翻訳倶楽部
 発行人:うさぎ堂 (フーダニット翻訳倶楽部 会長)
 編集人:片山奈緒美
 企 画:板村英樹、宇野百合枝、影谷 陽、かげやまみほ、小佐田愛子、
     中西和美、松本依子、水島和美、三角和代、山本さやか、
     吉田博子
 協 力:@nifty 文芸翻訳フォーラム
     小野仙内
 本メルマガへのご意見・ご感想 :whodmag@office-ono.com
 フーダニット翻訳倶楽部の連絡先:whodunit@mba.nifty.ne.jp
 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/whodunit/index.htm
 配信申し込み・解除/バックナンバー:
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 ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2002 Whodunit Honyaku-Club
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