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月刊 海外ミステリ通信
第12号 2002年8月号(毎月15日配信)
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★今月号の内容★
〈特別インタビュー〉 『小林宏明のGUN講座』の著者に聞く
〈注目の邦訳新刊〉 『諜報指揮官ヘミングウェイ』
〈速報〉 アンソニー賞ノミネート作品発表
〈お知らせ〉 フーダニット翻訳倶楽部 新Webサイト紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■インタビュー ―― 『小林宏明のGUN講座』の著者に聞く
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今年6月、ミステリの翻訳にたずさわる者が長いあいだ待ち望んでいたレファレン
ス本が出版された。題して『小林宏明のGUN講座』(エクスナレッジ社)。
警官や自衛官でないかぎり、実銃を目にする機会のないわれわれ日本人にとって、
海外ミステリに登場する銃器の描写をどう訳すかは悩みの種だった。インターネット
で外国のサイトを調べても定訳があるかどうかわからないし、日本で出版されている
ごくわずかな本はマニア向けで、基礎知識のない者が読んでもさらに疑問が増えるだ
けだった。
そんな状況のなか、拳銃やライフル、ショットガン、マシンガン、弾薬について初
心者にもわかりやすいように系統だてて説明されているこの本は、まさに銃器レファ
レンスのバイブルと言っても過言ではないだろう。
今回は著者の小林宏明さんにメイキング・ストーリーをうかがった。
+―――――――――――――――――――――――――――――――――+
|《小林宏明さん》1946年生まれ。東京都出身。明治大学英米文学科卒。『LAコ
|ンフィデンシャル』(ジェイムズ・エルロイ著/文春文庫)、『キリング・フロ
|アー 上・下』(リー・チャイルド著/講談社文庫)、『多重人格殺人者 上・
|下』(ジェイムズ・パタースン著/新潮文庫)など、翻訳書多数。
+―――――――――――――――――――――――――――――――――+
――『GUN講座』を出版された経緯についてお聞かせください。
「2000年11月から1年間、『通訳・翻訳ジャーナル』誌に《エンターテインメントの
陰に銃がある》というエッセイを連載していました。それを読んだ翻訳家の東江一紀
さんに1冊の本にまとめるように勧められ、出版社まで紹介してもらいました。実際
に本にするにあたっては、大幅に加筆してあります」
――銃についてくわしく調べようと思われたきっかけはなんですか?
「もともと銃には関心があったのですが、翻訳家仲間のパティオ(注)に寄せられた
銃に関する質問について調べているうちに歴史や由来などの背景がわかり、さらに興
味が深まって自分なりに勉強するようになりました」
(注)認証を受けたメンバーだけが参加できるオンライン・コミュニティ
――執筆にあたって苦労された点は?
「銃というのは特殊な世界ですから、まったくの初心者にもわかりやすい内容にする
ためにはどこから説明すればいいのか、そのポイントをつかむのがむずかしかったで
すね。その点では、翻訳家仲間から寄せられた質問や、@niftyの文芸翻訳フォーラム
で翻訳を勉強中のメンバーが作ってくれた質問リストがたいへん役に立ちました。
『GUN講座』は翻訳にたずさわる人たちだけでなく、海外ミステリを読むのが好き
な人たちにも読んでいただきたい本です。銃の知識がなくても海外ミステリを読むこ
とはできますが、ウェザビー・ライフルはライフルのなかでも高価で強力なモデルだ
ということや、ライフルやサブ・マシンガンには善玉(警察や軍隊)が持つモデルと
悪玉(ギャングなどの犯罪者)が持つモデルがあるということを知っていると、もっ
とミステリを楽しむことができると思います」
――銃の初心者にとって『GUN講座』はとても役に立つレファレンスだと思います
が、この次にそろえる資料としてお薦めのものはありますか?
「『最新ピストル図鑑』(床井雅美著/徳間文庫)などの図鑑がいいと思います。実
物の写真を見ることで具体的なイメージがわきます」
――銃の描写がうまい作家としてダシール・ハメットやドナルド・ハミルトンをあげ
ていらっしゃいますが、そのほかには?
「最近読んだなかでは『鋼(はがね)』(ダン・シモンズ著/嶋田洋一訳/早川書房)
がおもしろかったですね。また、『最も危険な場所 上・下』(スティーヴン・ハン
ター著/公手成幸訳/扶桑社ミステリー)には実在した有名なガンマンをもじった人
物がたくさん登場し、さながら活字版『荒野の7人』を思わせるストーリーでたいへ
ん楽しめました。以前に比べると、ミステリのなかに銃の細かい描写が多くなったの
は事実ですが、すべての描写が正しいとはかぎりません。銃や銃撃の場面を書いてい
る作家がみな実際に銃を所有していたり、実射の経験があるわけではなく、資料をも
とに想像力で書いている人もいるようです。逆に、もと警官や軍人という経歴を持つ
作家は生々しい銃の場面を書かないことが多いのですが、それは銃のおそろしさや被
害者の悲惨な姿をよく知っているからかもしれません」
――ハワイで実射を体験されたそうですが、感想は?
「実銃を撃ちたいと強く思っていたわけではなく、ハワイに行ったついでにためしに
ちょっと撃ってみただけですので、44マグナムの衝撃の強さが印象に残っている程度
です。ただ、最近は同じ口径のオートマティックとリボルバーの反動のちがいを実感
してみたいと思っています」
――続編の予定はありますか?
「具体的にはありませんが、もし機会があれば、次はショットガンについてもっとく
わしく書いてみたいですね。ショットガンはアメリカのミステリによく登場しますが、
もともとは狩猟用としてイギリスで生まれたもので、精巧な彫刻をほどこしたものが
貴族のあいだで珍重されていたようです。その後の発展の過程で有名人が関わった歴
史もあり、くわしく調べたらおもしろそうだと思っています。また、ケネディ大統領
暗殺事件やキング牧師暗殺事件など、アメリカで起こった実際の銃撃事件を、使用さ
れた銃の側面からとらえた本も書いてみたいと思います。最近おこったロサンゼルス
空港での事件も、日本ではそういう事件があったという報道しかされませんでしたが、
犯人はどんな銃を使ったのか、そういうことに興味があります」
『小林宏明のGUN講座』は、Books Whodunit(*)の「役に立つレファレンス集」
でくわしく紹介しています。表紙画像もご覧になれますので、ぜひ参考になさってく
ださい。(*)http://www002.upp.so-net.ne.jp/bookswhodunit/
(取材・文/中西和美、山本さやか)
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■注目の邦訳新刊レビュー ―― 『諜報指揮官ヘミングウェイ』
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『諜報指揮官ヘミングウェイ』(上・下) "THE CROOK FACTORY"
ダン・シモンズ/小林宏明訳
扶桑社ミステリー/2002.06.30発行 各876円(税別)
ISBN: 4594035477(上)、4594035485(下)
《ストーリーテラー、ダン・シモンズが新たなジャンルに挑戦した》
『殺戮のチェスゲーム』、『ハイペリオン』四部作、『ダーウィンの剃刀』、『鋼』
などさまざまなジャンルの小説を発表しているダン・シモンズが、1999年に上梓した
『諜報指揮官ヘミングウェイ』は、歴史サスペンスだ。
第二次世界大戦中、熱帯のキューバ、ハバナで暮らす小説家アーネスト・へミング
ウェイが、対諜報活動組織をつくった。キューバで活動しているナチスのスパイを監
視して、カリブ海で勢力を拡大しつつあったドイツ潜水艦Uボートの情報を入手する
のが目的だ。ウェイター、売春婦、新聞記者、漁師、孤児、ハイアライの選手などか
らなるその組織は、「悪党工場(クルック・ファクトリー)」と名づけられた。
FBIの作戦実行機関SISに所属するルーカスは、フーヴァー長官から、ヘミン
グウェイの組織に潜入し彼を監視してその行動を報告するよう命令される。長官が作
家の活動に興味を持つ理由がわからず、訝しがりながらも、ルーカスはキューバへ向
かう。
ヘミングウェイのスパイ活動は、有名作家の気まぐれなお遊びにみえた。連日のよ
うにパーティーを開いて浴びるように酒を飲み、悪ふざけで隣家に爆竹を投げ込み、
海釣りにでかける日々。一方、ルーカスはOSSやBSCといった米英の諜報機関か
ら接触を受け、また何者かに尾行され、命まで狙われる。なぜ自分が作家の遊びに付
き合わなければならないのか? フーヴァー長官の狙いは何か? 誰が味方で敵は誰
なのか? ルーカスは疑念を抱く。ハバナの売春宿でドイツの工作員らしき男が殺害
されたことをきっかけに、物語は大きく動きだし、へミングウェイ、ルーカス、そし
てクルック・ファクトリーが歴史の波にのまれていく。
著者シモンズが「95%事実に基づいている」と言っているとおり、実際に起きた事
件について言及され、ゲーリー・クーパー、イングリッド・バーグマン、マレーネ・
ディートリヒ、イアン・フレミングそしてジョン・F・ケネディなど実在の人物も多
数登場する。ヘミングウェイがクルック・ファクトリーという組織をつくってスパイ
活動をしていたことも、FBIがヘミングウェイの身辺を調査していたことも事実で、
シモンズはこれらを検証して、いっそうおもしろい物語に仕立てあげている。
豊かな才能があって虚構の世界に生き、こどものようにわがままで、友人や身内に
対しては思いやりのある「パパ」ヘミングウェイの世界と、敵を陥れるためにだまし
あい、必要があれば人殺しも厭わない米英独の諜報活動の対比がおもしろい。また、
物語のなかで、ヘミングウェイの小説論も語られ、こちらも興味深い。
熱風を感じるようなキューバのけだるい夏の描写も、いまの季節にぴったりで楽し
める。
(清野 泉)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■速報 ―― アンソニー賞ノミネート作品発表
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
世界最大のミステリー大会バウチャーコンが主催する、アンソニー賞のノミネート
作品が発表になった。受賞作は10月に行われるバウチャーコンで発表される。以下に
ご紹介する部門のほか、ノンフィクション/評論賞、ヤングアダルト・ミステリ賞、
カバー・アート賞などがある。
●最優秀長篇賞(Best Mystery Novel)
"THE DEVIL WENT DOWN TO AUSTIN" Rick Riordan
"FLIGHT" ジャン・バーク
『ミスティック・リバー』 デニス・ルヘイン
"REFLECTING THE SKY" S・J・ローザン
"TELL NO ONE" ハーラン・コーベン
●最優秀処女長篇賞(Best First Mystery Novel)
"AUSTIN CITY BLUE" Jan Grape
"THE JASMINE TRADE" Denise Hamilton
"OPEN SEASON" C. J. Box
"THIRD PERSON SINGULAR" K. J. Erickson
"A WITNESS ABOVE" Andy Straka
●最優秀ペーパーバック・オリジナル賞(BEST PAPERBACK ORIGINAL)
"DEAD OF WINTER" P. J. Parrish
"DEAD UNTIL DARK" Charlaine Harris
"DIM SUM DEAD" ジェリリン・ファーマー
"THE HOUDINI SPECTER" ダニエル・スタショア
"A KISS GONE BAD" ジェフ・アボット
●最優秀短篇賞(Best Mystery Short Story)
"Bitter Waters" ロシェル・メジャー・クリッヒ
(in "CRIMINAL KABBALAH")
"Chocolate Moose" Bill & Judy Crider
(in "DEATH DINES AT 8:30")
「ペテン師ディランシー」 S・J・ローザン
(in "MYSTERYSTREET")
"My Bonnie Lies" Ted Hertel, Jr.
(in "THE MAMMOTH BOOK OF LEGAL
THRILLERS")
「サファイアをつけた乙女座の女」 マーガレット・マロン
(in "EQMM", December 2001)
(かげやまみほ)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■フーダニット翻訳倶楽部 新Webサイト紹介
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「海外ミステリ通信」を発行している「フーダニット翻訳倶楽部」では今年5月、新
しいWebサイトをオープンしました。これまでのコンテンツに加えて、読み物や資料
のコーナー、自由に書き込める掲示板を新設。そのおもな内容をご紹介します。
各コーナーと掲示板には、すべて下のURLからアクセスできます。
フーダニット翻訳倶楽部トップページ http://www.litrans.net/whodunit/
●ミステリ賞リスト
http://www.litrans.net/whodunit/awards/
これまでにメールマガジンで紹介したMWA、アガサ、シェイマス、アンソニー、
マカヴィティ、CWAの主要6賞について、1998年以降の受賞作、ノミネート作をリ
ストアップ。邦訳情報も加えています。そのほかの賞も最新の情報を掲載。
●EQMM作家紹介
http://www.litrans.net/whodunit/eqmm/mainlist.htm
米国のミステリ専門誌 "Ellery Queen's Mystery Magazine" の1999年1月号から
2001年12月号までに掲載された短篇と作者のリスト。邦訳情報も。
●ミステリと街
http://www.litrans.net/whodunit/city/
「海外ミステリ通信」2001年11月号の特集「ミステリと街・ボルチモア」の関連コー
ナー。ボルチモアにまつわる観光地、実在する店、人物名などのリンク集です。
●ミステリな食卓
http://www.litrans.net/whodunit/shoku/
ミステリ小説のなかに登場するおいしそうな料理をさがし、実際に料理を作れるよ
うにレシピにしました。おかずやおやつに一品いかがですか?
●リンク集
http://www.litrans.net/whodunit/links/
ミステリ関係のニュースサイトや作家のオフィシャルサイト、出版社のサイトなど、
最新の情報を得られる便利なサイトを集めました。
●掲示板「黒猫亭」
http://www.litrans.net/whodunit/bbs/wdlight01/light.cgi
フリートーク掲示板です。「海外ミステリ通信」やWebサイトの感想はこちらへど
うぞ。倶楽部への入会希望もこちらで受け付けています。
●掲示板「PRIME CRIME RHYME」
http://www.litrans.net/whodunit/bbs/wdlight02/light.cgi
海外ミステリについて語る掲示板です。読み終えた本の感想や、大好きな作家の話
などはこちらへどうぞ。会員による新刊情報もあります。8月からは「ミステリ賞読
書マラソン」も始まりました。
●掲示板「原書50冊マラソン」
http://www.litrans.net/whodunit/bbs/wdlight03/light.cgi
会員の有志が、1年間でミステリの原書を50冊読もうという企画にチャレンジ中で
す。こちらはその進行状況や読了の報告を書き込む掲示板。見学は自由です。
フーダニット翻訳倶楽部では、会員を常時募集しています。ミステリの翻訳を学習
中の方はもちろん、原書、訳書にかかわらず海外ミステリを読むのが好きな方、おす
すめの海外ミステリを知りたい方など、どなたでも歓迎です。
入会金は無料で、会員になると読書マラソンなどの倶楽部の企画に参加することが
できます。「海外ミステリ通信」の記事を執筆したり、取材に参加したりもできます。
興味がわいたら、まずは掲示板へどうぞ。ご参加をお待ちしています。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇連載記事で取りあげた本の一覧はこちらで
http://www15.u-page.so-net.ne.jp/ya2/y-kage/mag/regular.html
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
■編集後記■
ご自分の著書に付箋をいっぱい貼って、「書き足したいところがこんなにあるんだ
よ」とおっしゃっていた小林宏明さん。その真摯な姿勢に思わず頭がさがりました。
記事以外にもためになるお話をいろいろとうかがい、充実したひとときとなりました。
来月の特集では、これからの英国ミステリをささえるいきのいい作家をご紹介します。
インタビューには、イアン・ランキンの翻訳を手がけていらっしゃる延原泰子さんが
登場する予定です。お楽しみに。 (や)
*****************************************************************
海外ミステリ通信 第12号 2002年8月号
発 行:フーダニット翻訳倶楽部
発行人:うさぎ堂 (フーダニット翻訳倶楽部 会長)
編集人:片山奈緒美
企 画:板村英樹、宇野百合枝、大越博子、影谷 陽、かげやまみほ、
清野 泉、小佐田愛子、中西和美、松本依子、三角和代、
山田亜樹子、山本さやか
協 力:@nifty 文芸翻訳フォーラム
小野仙内
本メルマガへのご意見・ご感想: whodmag@office-ono.com
フーダニット翻訳倶楽部の連絡先: mwmag@litrans.net
http://www.litrans.net/whodunit/
配信申し込み・解除/バックナンバー:
http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/whodunit/magazine/index.htm
■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2002 Whodunit Honyaku Club
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月刊 海外ミステリ通信
第12号 2002年8月号(毎月15日配信)
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★今月号の内容★
〈特別インタビュー〉 『小林宏明のGUN講座』の著者に聞く
〈注目の邦訳新刊〉 『諜報指揮官ヘミングウェイ』
〈速報〉 アンソニー賞ノミネート作品発表
〈お知らせ〉 フーダニット翻訳倶楽部 新Webサイト紹介
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■インタビュー ―― 『小林宏明のGUN講座』の著者に聞く
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今年6月、ミステリの翻訳にたずさわる者が長いあいだ待ち望んでいたレファレン
ス本が出版された。題して『小林宏明のGUN講座』(エクスナレッジ社)。
警官や自衛官でないかぎり、実銃を目にする機会のないわれわれ日本人にとって、
海外ミステリに登場する銃器の描写をどう訳すかは悩みの種だった。インターネット
で外国のサイトを調べても定訳があるかどうかわからないし、日本で出版されている
ごくわずかな本はマニア向けで、基礎知識のない者が読んでもさらに疑問が増えるだ
けだった。
そんな状況のなか、拳銃やライフル、ショットガン、マシンガン、弾薬について初
心者にもわかりやすいように系統だてて説明されているこの本は、まさに銃器レファ
レンスのバイブルと言っても過言ではないだろう。
今回は著者の小林宏明さんにメイキング・ストーリーをうかがった。
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|《小林宏明さん》1946年生まれ。東京都出身。明治大学英米文学科卒。『LAコ
|ンフィデンシャル』(ジェイムズ・エルロイ著/文春文庫)、『キリング・フロ
|アー 上・下』(リー・チャイルド著/講談社文庫)、『多重人格殺人者 上・
|下』(ジェイムズ・パタースン著/新潮文庫)など、翻訳書多数。
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――『GUN講座』を出版された経緯についてお聞かせください。
「2000年11月から1年間、『通訳・翻訳ジャーナル』誌に《エンターテインメントの
陰に銃がある》というエッセイを連載していました。それを読んだ翻訳家の東江一紀
さんに1冊の本にまとめるように勧められ、出版社まで紹介してもらいました。実際
に本にするにあたっては、大幅に加筆してあります」
――銃についてくわしく調べようと思われたきっかけはなんですか?
「もともと銃には関心があったのですが、翻訳家仲間のパティオ(注)に寄せられた
銃に関する質問について調べているうちに歴史や由来などの背景がわかり、さらに興
味が深まって自分なりに勉強するようになりました」
(注)認証を受けたメンバーだけが参加できるオンライン・コミュニティ
――執筆にあたって苦労された点は?
「銃というのは特殊な世界ですから、まったくの初心者にもわかりやすい内容にする
ためにはどこから説明すればいいのか、そのポイントをつかむのがむずかしかったで
すね。その点では、翻訳家仲間から寄せられた質問や、@niftyの文芸翻訳フォーラム
で翻訳を勉強中のメンバーが作ってくれた質問リストがたいへん役に立ちました。
『GUN講座』は翻訳にたずさわる人たちだけでなく、海外ミステリを読むのが好き
な人たちにも読んでいただきたい本です。銃の知識がなくても海外ミステリを読むこ
とはできますが、ウェザビー・ライフルはライフルのなかでも高価で強力なモデルだ
ということや、ライフルやサブ・マシンガンには善玉(警察や軍隊)が持つモデルと
悪玉(ギャングなどの犯罪者)が持つモデルがあるということを知っていると、もっ
とミステリを楽しむことができると思います」
――銃の初心者にとって『GUN講座』はとても役に立つレファレンスだと思います
が、この次にそろえる資料としてお薦めのものはありますか?
「『最新ピストル図鑑』(床井雅美著/徳間文庫)などの図鑑がいいと思います。実
物の写真を見ることで具体的なイメージがわきます」
――銃の描写がうまい作家としてダシール・ハメットやドナルド・ハミルトンをあげ
ていらっしゃいますが、そのほかには?
「最近読んだなかでは『鋼(はがね)』(ダン・シモンズ著/嶋田洋一訳/早川書房)
がおもしろかったですね。また、『最も危険な場所 上・下』(スティーヴン・ハン
ター著/公手成幸訳/扶桑社ミステリー)には実在した有名なガンマンをもじった人
物がたくさん登場し、さながら活字版『荒野の7人』を思わせるストーリーでたいへ
ん楽しめました。以前に比べると、ミステリのなかに銃の細かい描写が多くなったの
は事実ですが、すべての描写が正しいとはかぎりません。銃や銃撃の場面を書いてい
る作家がみな実際に銃を所有していたり、実射の経験があるわけではなく、資料をも
とに想像力で書いている人もいるようです。逆に、もと警官や軍人という経歴を持つ
作家は生々しい銃の場面を書かないことが多いのですが、それは銃のおそろしさや被
害者の悲惨な姿をよく知っているからかもしれません」
――ハワイで実射を体験されたそうですが、感想は?
「実銃を撃ちたいと強く思っていたわけではなく、ハワイに行ったついでにためしに
ちょっと撃ってみただけですので、44マグナムの衝撃の強さが印象に残っている程度
です。ただ、最近は同じ口径のオートマティックとリボルバーの反動のちがいを実感
してみたいと思っています」
――続編の予定はありますか?
「具体的にはありませんが、もし機会があれば、次はショットガンについてもっとく
わしく書いてみたいですね。ショットガンはアメリカのミステリによく登場しますが、
もともとは狩猟用としてイギリスで生まれたもので、精巧な彫刻をほどこしたものが
貴族のあいだで珍重されていたようです。その後の発展の過程で有名人が関わった歴
史もあり、くわしく調べたらおもしろそうだと思っています。また、ケネディ大統領
暗殺事件やキング牧師暗殺事件など、アメリカで起こった実際の銃撃事件を、使用さ
れた銃の側面からとらえた本も書いてみたいと思います。最近おこったロサンゼルス
空港での事件も、日本ではそういう事件があったという報道しかされませんでしたが、
犯人はどんな銃を使ったのか、そういうことに興味があります」
『小林宏明のGUN講座』は、Books Whodunit(*)の「役に立つレファレンス集」
でくわしく紹介しています。表紙画像もご覧になれますので、ぜひ参考になさってく
ださい。(*)http://www002.upp.so-net.ne.jp/bookswhodunit/
(取材・文/中西和美、山本さやか)
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■注目の邦訳新刊レビュー ―― 『諜報指揮官ヘミングウェイ』
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『諜報指揮官ヘミングウェイ』(上・下) "THE CROOK FACTORY"
ダン・シモンズ/小林宏明訳
扶桑社ミステリー/2002.06.30発行 各876円(税別)
ISBN: 4594035477(上)、4594035485(下)
《ストーリーテラー、ダン・シモンズが新たなジャンルに挑戦した》
『殺戮のチェスゲーム』、『ハイペリオン』四部作、『ダーウィンの剃刀』、『鋼』
などさまざまなジャンルの小説を発表しているダン・シモンズが、1999年に上梓した
『諜報指揮官ヘミングウェイ』は、歴史サスペンスだ。
第二次世界大戦中、熱帯のキューバ、ハバナで暮らす小説家アーネスト・へミング
ウェイが、対諜報活動組織をつくった。キューバで活動しているナチスのスパイを監
視して、カリブ海で勢力を拡大しつつあったドイツ潜水艦Uボートの情報を入手する
のが目的だ。ウェイター、売春婦、新聞記者、漁師、孤児、ハイアライの選手などか
らなるその組織は、「悪党工場(クルック・ファクトリー)」と名づけられた。
FBIの作戦実行機関SISに所属するルーカスは、フーヴァー長官から、ヘミン
グウェイの組織に潜入し彼を監視してその行動を報告するよう命令される。長官が作
家の活動に興味を持つ理由がわからず、訝しがりながらも、ルーカスはキューバへ向
かう。
ヘミングウェイのスパイ活動は、有名作家の気まぐれなお遊びにみえた。連日のよ
うにパーティーを開いて浴びるように酒を飲み、悪ふざけで隣家に爆竹を投げ込み、
海釣りにでかける日々。一方、ルーカスはOSSやBSCといった米英の諜報機関か
ら接触を受け、また何者かに尾行され、命まで狙われる。なぜ自分が作家の遊びに付
き合わなければならないのか? フーヴァー長官の狙いは何か? 誰が味方で敵は誰
なのか? ルーカスは疑念を抱く。ハバナの売春宿でドイツの工作員らしき男が殺害
されたことをきっかけに、物語は大きく動きだし、へミングウェイ、ルーカス、そし
てクルック・ファクトリーが歴史の波にのまれていく。
著者シモンズが「95%事実に基づいている」と言っているとおり、実際に起きた事
件について言及され、ゲーリー・クーパー、イングリッド・バーグマン、マレーネ・
ディートリヒ、イアン・フレミングそしてジョン・F・ケネディなど実在の人物も多
数登場する。ヘミングウェイがクルック・ファクトリーという組織をつくってスパイ
活動をしていたことも、FBIがヘミングウェイの身辺を調査していたことも事実で、
シモンズはこれらを検証して、いっそうおもしろい物語に仕立てあげている。
豊かな才能があって虚構の世界に生き、こどものようにわがままで、友人や身内に
対しては思いやりのある「パパ」ヘミングウェイの世界と、敵を陥れるためにだまし
あい、必要があれば人殺しも厭わない米英独の諜報活動の対比がおもしろい。また、
物語のなかで、ヘミングウェイの小説論も語られ、こちらも興味深い。
熱風を感じるようなキューバのけだるい夏の描写も、いまの季節にぴったりで楽し
める。
(清野 泉)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■速報 ―― アンソニー賞ノミネート作品発表
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世界最大のミステリー大会バウチャーコンが主催する、アンソニー賞のノミネート
作品が発表になった。受賞作は10月に行われるバウチャーコンで発表される。以下に
ご紹介する部門のほか、ノンフィクション/評論賞、ヤングアダルト・ミステリ賞、
カバー・アート賞などがある。
●最優秀長篇賞(Best Mystery Novel)
"THE DEVIL WENT DOWN TO AUSTIN" Rick Riordan
"FLIGHT" ジャン・バーク
『ミスティック・リバー』 デニス・ルヘイン
"REFLECTING THE SKY" S・J・ローザン
"TELL NO ONE" ハーラン・コーベン
●最優秀処女長篇賞(Best First Mystery Novel)
"AUSTIN CITY BLUE" Jan Grape
"THE JASMINE TRADE" Denise Hamilton
"OPEN SEASON" C. J. Box
"THIRD PERSON SINGULAR" K. J. Erickson
"A WITNESS ABOVE" Andy Straka
●最優秀ペーパーバック・オリジナル賞(BEST PAPERBACK ORIGINAL)
"DEAD OF WINTER" P. J. Parrish
"DEAD UNTIL DARK" Charlaine Harris
"DIM SUM DEAD" ジェリリン・ファーマー
"THE HOUDINI SPECTER" ダニエル・スタショア
"A KISS GONE BAD" ジェフ・アボット
●最優秀短篇賞(Best Mystery Short Story)
"Bitter Waters" ロシェル・メジャー・クリッヒ
(in "CRIMINAL KABBALAH")
"Chocolate Moose" Bill & Judy Crider
(in "DEATH DINES AT 8:30")
「ペテン師ディランシー」 S・J・ローザン
(in "MYSTERYSTREET")
"My Bonnie Lies" Ted Hertel, Jr.
(in "THE MAMMOTH BOOK OF LEGAL
THRILLERS")
「サファイアをつけた乙女座の女」 マーガレット・マロン
(in "EQMM", December 2001)
(かげやまみほ)
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■フーダニット翻訳倶楽部 新Webサイト紹介
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「海外ミステリ通信」を発行している「フーダニット翻訳倶楽部」では今年5月、新
しいWebサイトをオープンしました。これまでのコンテンツに加えて、読み物や資料
のコーナー、自由に書き込める掲示板を新設。そのおもな内容をご紹介します。
各コーナーと掲示板には、すべて下のURLからアクセスできます。
フーダニット翻訳倶楽部トップページ http://www.litrans.net/whodunit/
●ミステリ賞リスト
http://www.litrans.net/whodunit/awards/
これまでにメールマガジンで紹介したMWA、アガサ、シェイマス、アンソニー、
マカヴィティ、CWAの主要6賞について、1998年以降の受賞作、ノミネート作をリ
ストアップ。邦訳情報も加えています。そのほかの賞も最新の情報を掲載。
●EQMM作家紹介
http://www.litrans.net/whodunit/eqmm/mainlist.htm
米国のミステリ専門誌 "Ellery Queen's Mystery Magazine" の1999年1月号から
2001年12月号までに掲載された短篇と作者のリスト。邦訳情報も。
●ミステリと街
http://www.litrans.net/whodunit/city/
「海外ミステリ通信」2001年11月号の特集「ミステリと街・ボルチモア」の関連コー
ナー。ボルチモアにまつわる観光地、実在する店、人物名などのリンク集です。
●ミステリな食卓
http://www.litrans.net/whodunit/shoku/
ミステリ小説のなかに登場するおいしそうな料理をさがし、実際に料理を作れるよ
うにレシピにしました。おかずやおやつに一品いかがですか?
●リンク集
http://www.litrans.net/whodunit/links/
ミステリ関係のニュースサイトや作家のオフィシャルサイト、出版社のサイトなど、
最新の情報を得られる便利なサイトを集めました。
●掲示板「黒猫亭」
http://www.litrans.net/whodunit/bbs/wdlight01/light.cgi
フリートーク掲示板です。「海外ミステリ通信」やWebサイトの感想はこちらへど
うぞ。倶楽部への入会希望もこちらで受け付けています。
●掲示板「PRIME CRIME RHYME」
http://www.litrans.net/whodunit/bbs/wdlight02/light.cgi
海外ミステリについて語る掲示板です。読み終えた本の感想や、大好きな作家の話
などはこちらへどうぞ。会員による新刊情報もあります。8月からは「ミステリ賞読
書マラソン」も始まりました。
●掲示板「原書50冊マラソン」
http://www.litrans.net/whodunit/bbs/wdlight03/light.cgi
会員の有志が、1年間でミステリの原書を50冊読もうという企画にチャレンジ中で
す。こちらはその進行状況や読了の報告を書き込む掲示板。見学は自由です。
フーダニット翻訳倶楽部では、会員を常時募集しています。ミステリの翻訳を学習
中の方はもちろん、原書、訳書にかかわらず海外ミステリを読むのが好きな方、おす
すめの海外ミステリを知りたい方など、どなたでも歓迎です。
入会金は無料で、会員になると読書マラソンなどの倶楽部の企画に参加することが
できます。「海外ミステリ通信」の記事を執筆したり、取材に参加したりもできます。
興味がわいたら、まずは掲示板へどうぞ。ご参加をお待ちしています。
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◇連載記事で取りあげた本の一覧はこちらで
http://www15.u-page.so-net.ne.jp/ya2/y-kage/mag/regular.html
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■編集後記■
ご自分の著書に付箋をいっぱい貼って、「書き足したいところがこんなにあるんだ
よ」とおっしゃっていた小林宏明さん。その真摯な姿勢に思わず頭がさがりました。
記事以外にもためになるお話をいろいろとうかがい、充実したひとときとなりました。
来月の特集では、これからの英国ミステリをささえるいきのいい作家をご紹介します。
インタビューには、イアン・ランキンの翻訳を手がけていらっしゃる延原泰子さんが
登場する予定です。お楽しみに。 (や)
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海外ミステリ通信 第12号 2002年8月号
発 行:フーダニット翻訳倶楽部
発行人:うさぎ堂 (フーダニット翻訳倶楽部 会長)
編集人:片山奈緒美
企 画:板村英樹、宇野百合枝、大越博子、影谷 陽、かげやまみほ、
清野 泉、小佐田愛子、中西和美、松本依子、三角和代、
山田亜樹子、山本さやか
協 力:@nifty 文芸翻訳フォーラム
小野仙内
本メルマガへのご意見・ご感想: whodmag@office-ono.com
フーダニット翻訳倶楽部の連絡先: mwmag@litrans.net
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■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2002 Whodunit Honyaku Club
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