忍者ブログ
 フーダニット翻訳倶楽部のブログです。倶楽部からのお知らせ、新刊情報などを紹介します。  トラックバックとコメントは今のところできません。ご了承ください。  ご連絡は trans_whod☆yahoo(メール送信の際に☆の部分を@に変更してください)まで。お返事遅くなるかもしれませんが、あしからずご了承ください。お急ぎの方はTwitter @usagido まで。
[54]  [53]  [52]  [51]  [50]  [49]  [46]  [45]  [44]  [43]  [42
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
             月刊 海外ミステリ通信
          第9号 2002年5月号(毎月15日配信)
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

★今月号の内容★
〈特集〉        ハーラン・コーベン、伝統と破格のバランスの妙
〈翻訳家インタビュー〉 加賀山卓朗さん
〈注目の邦訳新刊〉   『フェルメール殺人事件』『滝』
〈ミステリ雑学〉    ヨーホーが好きでどこが悪い?
〈スタンダードな1冊〉 『初秋』
〈速報〉        MWA賞、アガサ賞受賞作発表

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■特集 ―― ハーラン・コーベン、伝統と破格のバランスの妙

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 今回はなにか楽しいミステリはないかとお探しのかたに、うってつけの作家を特集
する。スポーツ・エージェントのマイロン・ボライター・シリーズを発表しているハ
ーラン・コーベンだ。
 作品を読むと、口から先に生まれたTVドラマおたくに思え、著者自身の不定期ニ
ュースレターに目を通すと、ひょっとして元コメディアンではないかと経歴を目でた
どってしまう。そんな気にさせるやんちゃ坊主は、生まれも育ちもそして現住所もニ
ュージャージー州。口から先に生まれてきたのは1962年のことだから、今年ちょうど
40歳だ。アマースト・カレッジで政治学を専攻、卒業後は旅行代理店に勤務。コメデ
ィアンの道に進むことなく、90年、91年にメディカル・ミステリを2冊発表した。作
家業を続けるには方向転換する必要性があると感じたコーベンは、マイロン・シリー
ズに着手。これが各ミステリ賞のノミネートや受賞の栄誉に輝く人気シリーズとなる。

 マイロンは元バスケットボール選手という設定だ。NBAのドラフトで1位指名さ
れるが、デビュー戦のプレシーズン・ゲームで膝を負傷し、選手生命を断たれる。め
げたはずだがぐっとこらえて、ハーバードのロー・スクールに通い司法試験にパス、
その後エージェントに転身。温かな家庭を作ることを夢みるロマンチストで、30歳す
ぎまで両親と同居している。絶滅寸前のいい子である。それもひとに嫌味を感じさせ
ない稀ないい子だ。オフィスはパーク・アヴェニューに面したミッドタウンの一等地
にある。さぞかし儲けているのだろうって? いいや、それはメイフラワー号までル
ーツをさかのぼることができるという財閥の御曹司、親友ウィンのおかげだ。
 ウィンの本名はウィンザー・ホーン・ロックウッド3世。金髪、碧眼、ゴルフのハ
ンデはプロ並み、国内有数の腕利き財務アドバイザー、住まいはダコタ・アパート。
嫌味である。とてつもなく嫌味な男である。しかし、かなりかっこいいと白状せざる
をえない。ウィンは生い立ちに絡むある理由から、信頼だの愛だのは屁だと思う男に
成長したが、大学でルームメイトだったマイロンだけには心を許し、持ちビルのワン
フロアを格安で貸すほどの親しいつきあいを続けている。ウィンはとんだくせ者で、
見かけと大ちがいで「実戦」に強く、その名を聞いた街のギャングを青ざめさせる冷
酷な一面をもっている。
 このふたりは、同時期にFBIで仕事をしていたことがある。そのために、マイロ
ンはエージェントながら、おもにクライアント絡みの事件で次々と探偵の真似をする
はめになるわけだ。探偵業の際は相棒としてもってこいのウィンだが、愛を理解しな
いウィンには相談できないこともある。そんなとき、マイロンにはもうひとり、頼り
になる親友がいる。秘書(のちに共同経営者)のエスペランサだ。
 小柄で愛くるしい外見のエスペランサはバイセクシャルの元女子プロレスラー。マ
イロンのボケに鋭いつっこみを見せる指南役だ。オフィスにはエスペランサとタッグ
を組んでいた巨体の持ち主、ビッグ・シンディというアシスタントもいて、はちゃめ
ちゃなところを見せてくれる。《クライム・ペイズ・コム》のインタビューによると、
最初の構想では秘書役がビッグ・シンディで、エスペランサは存在していなかったの
だという。人の助言でコーベンはエスペランサというキャラクターを生み出したそう
だ。
 マイロン、ウィン、エスペランサという強烈な個性の3人が中心となって織りなす
物語は友情にあふれ、しゃれた設定で華やかな世界を見せてくれる。華やかだが浮つ
いていないのは、善、昔ながらの価値観、こうしたものを中央に据えて書いているか
ら。シリーズ中で繰り返し使われる「ノーマン・ロックウェル的」という表現が的確
にそのノスタルジックな雰囲気を伝えている。といっても、単なる安心して読める楽
しいミステリではない。シリーズが進むにつれて、マイロンには恋人との関係や両親
の老いなど悩みが増していくが、ウィンやエスペランサがマイロンに与える助言は奥
深い含蓄をも感じさせる。
 しかしながら、マイロン・シリーズのある意味マンガチックな設定が苦手で敬遠し
ているむきもあると思う。それならば、ぜひノンシリーズを手にとってほしい。コー
ベンの特徴である軽快な雰囲気はノンシリーズでもかわりなく楽しめるから。しかも、
しだいに脂が乗ってきた人と人との絆に関する優れた描写は、この最近の2冊にとく
に顕著である。そのうちの1冊、"TELL NO ONE" は惜しくも受賞は逃したものの、先
ごろ発表された本年度のMWA最優秀長編賞に堂々とノミネートされた作品だ。映画
化も決定しており、コロンビア映画でこの夏にもクランクインの予定。
 じつはスポーツ観戦は好きではないというコーベン。興味があるのは、あくまでも
スポーツ界内幕の確執なのだそうだ。シリーズ7冊のあとは単発の作品が2冊続いて
いるが、2年以内にはまたマイロンものを再開する予定らしい。今年の後半に、オッ
トー・ペンズラー編の短篇集にマイロンものを載せるという話も出ており楽しみだ。

〈ハーラン・コーベン作品リスト〉
長篇 "PLAY DEAD"、"MIRACLE CURE"(どちらも絶版、未訳)
   『沈黙のメッセージ』『偽りの目撃者』『カムバック・ヒーロー』
   『ロンリー・ ファイター』『スーパー・エージェント』
   『パーフェクト・ゲーム』『ウイニング・ラン』
   (邦訳はマイロン・シリーズ、中津悠訳/ハヤカワ文庫刊)
   "TELL NO ONE" (ノンシリーズ、講談社文庫より10月刊行予定)
   "GONE FOR GOOD"(ノンシリーズ、未訳)
短篇 「単純な理屈」 (中津悠訳/ミステリマガジン2000年1月号)
   「罠に落ちて」 (山本やよい訳/ジャーロ2001年夏号)
                                (三角和代)

                 ◆ ◆ ◆

『ウイニング・ラン』 "DARKEST FEAR"
 ハーラン・コーベン/中津悠訳
 ハヤカワ・ミステリ文庫/2002.04.30発行 980円(税別)
 ISBN: 4151709576

《消えたドナーを追え!――息子の命を救うためマイロンは奔走する》

 はやいもので、スポーツ・エージェント、マイロン・ボライターのシリーズも本作
で7作目となる。今回のマイロンは本業を離れ(前作のエピソードで顧客の多くを失
い開店休業状態なのだ)、人捜しをすることになる。
 依頼主は大学時代の恋人エミリー。彼女の13歳になる息子ジェレミーは、ファンコ
ーニ貧血という遺伝性の難病を患っており、骨髄移植をしなければ助からない。運良
く完璧に適合する提供者(ドナー)が見つかったものの、その喜びもつかの間、ドナ
ーの行方がわからなくなった。息子の命を救うため、行方不明のドナーを見つけてほ
しいとエミリーは懇願する。そして、躊躇するマイロンにこう言って追い討ちをかけ
る。「ジェレミーはあなたの子供なの」
 ドナー捜しに過去の連続誘拐事件がからみ、物語は複雑化していく。事件の展開も
真相も、これまでになくダークで重く、爽やか、軽妙、洒脱といういつものイメージ
とはいささか趣を異にしている。だが、心配無用。マイロンの軽口は健在だし、ウィ
ンとエスペランサという頼もしいパートナーが脇をきっちりかためているから、安心
して物語の流れに身をまかせてほしい。
 今回きわだっているのは、家族、特に父と子の関係が前面に押し出されている点だ。
これまでもこのシリーズでは、マイロン親子の絵に描いたようにまっとうな関係がさ
りげなく描かれてきた。だが、本作ではその関係にやや翳りが生じてきている。マイ
ロンは30代半ば。両親もけっして若くはない。父は最近、冠状動脈血栓症を患った。
老いてきた父の姿に、いつの日か永遠の別れを告げなくてはならぬ日が来ることを思
い知らされ、マイロンは心が張り裂けるような思いを味わう。そこに降ってわいた実
の息子の存在。「親というのは子を育て、愛した人間であって、生物学的偶然には意
味がない」(本書p.163)頭ではそうわかっていても、その子を目の前にしたとたん、
胸に熱くこみあげるものを感じるマイロン。単なる生物学上の関係とは言え、子を持
ったことでマイロンの人間性がひとまわり大きくなった……と感じるのはファンの贔
屓目だろうか?
                               (山本さやか)
----------------------------------------------------------------------------
"TELL NO ONE" by Harlan Coben
Delacorte Press/2001.06/ISBN: 0385335555

《良質のサスペンスであると同時に、妻への愛をかけたラブ・ストーリー》

 幼なじみのエリザベスと結婚したデイヴィッドは、この幸せが永遠に続くと信じて
いた。だが新婚7か月のとき、悲劇が起こる。エリザベスが何者かに襲われ、デイヴ
ィッドも鈍器で殴られ意識を失うという事件が起きたのだ。数日後、彼を待っていた
のは妻が連続殺人犯に殺されたという惨い知らせだった。
 あれから8年。傷心のデイヴィッドのもとに、死んだはずの妻からとしか思えない
匿名Eメールが届く。これは一体どういうことだ。妻は生きているのか。また当時事
件があった湖付近から他殺体が発見され、警察はデイヴィッドがエリザベス殺害事件
に関与していたのではと疑いを持ち始めた。あらぬ嫌疑をかけられ、身に降りかかる
危険を察知しながらも、エリザベスへの忘れえぬ愛に突き動かされるまま、デイヴィ
ッドは真相究明の決意を固める。だが、それがどれほど多くの危険な事態を引き起こ
すことになるか、そのときには知る由もなかった……。
 突然の不可解な出来事で過去の事件の真相が暴かれるという展開は、ミステリでは
決して珍しくない。にもかかわらず、インターネットという不特定多数を対象とする
小道具も手伝い、何が起きているのか全くわからない緊張感が全編を貫いているため、
最後まで高いテンションを維持して読める。またコーベンは登場人物の叙情面の表現
に冴えた筆致を見せる作家だが、今回も主人公と敵対する大富豪が息子を回想する場
面には心を揺さぶられた。命をかけて愛する者を守ろうとする者たちの利害が対立し
てしまったら、ただではすまないのは必至だ。本書はマイロン・シリーズで築き上げ
た作者の手法が凝縮した会心の作で、新たな読者を獲得すること間違いなしだ。
                               (宇野百合枝)
----------------------------------------------------------------------------
"GONE FOR GOOD" by Harlan Coben
Delacorte Press/2002.04.30/ISBN: 038533558X

《兄の無実を信じて――容疑者の家族の姿を中心に描いた最新作》

 いま安堵と感激のなかでパソコンにむかっている。刊行まえの紹介文から察するに
前作と設定が似ているようで、ファンとしてはどの程度の内容なのか気を揉んでいた
のだが、疑ったわたしがおまぬけだった。これは自信をもってお薦めできるコーベン
の代表作だ。
 主人公はNYの家出人シェルター職員のウィル。同僚で額に「田」の形のタトゥー
がある“スクエアズ”や、元収容者で現在はシェルターのボランティアをしている恋
人シーラらに囲まれて、充実した毎日を送っている。けれども、ウィルには振り払お
うとしても払いきれない影があった。11年まえに、兄のケンに殺人容疑がかかり、兄
は逃亡し、いまだに行方知れずとなっているのだ。家族は無実を信じていたが世間の
目は冷たく、針のむしろにすわるような思いでそれぞれが過ごしてきた11年だった。
陽気だった母は心労から身体をこわし、ついにこのたび帰らぬ人となった。悲しみに
くれて母の遺品を整理していたウィルは、わが目を疑うものを見つける。それは最近
の日付がはいり、相応な年輪が顔に刻まれた兄の写真だった。では、母は兄と連絡を
取りあっていたのか? 混乱するウィルを待ち受けていたのは、さらなる驚きと危険。
11年の年月を経て、事件の真相が解明されるときがやってくる――。
 コーベンがすばらしいと思うのは、なにを書いても人まねにならず、しっかり自分
のものとして昇華させるところ。そこが忘れられないオリジナリティとなって、人の
心をつかむ。円熟の境に達したといってもよい内容で、家族との絆を一歩踏み込んで
描いた場面に、心を動かされない人はいないはず。ハンカチを準備のこと。そしてこ
の鮮やかなラスト。コーベンさま、もう疑いません、悔い改めます、ついていきます。
                                (三角和代)

◇特集記事で取りあげた本の一覧はこちらで
http://www15.u-page.so-net.ne.jp/ya2/y-kage/mag/feature.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■翻訳家インタビュー ―― 加賀山卓朗さん

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 今月は通信会社にお勤めをされながら、意欲的に訳書を出されている加賀山卓朗さ
んにお話をうかがいます。
+――――――――――――――――――――――――――――――――――+
|《加賀山卓朗(かがやま たくろう)さん》1962年愛媛県生まれ。東京大学法学
|部卒業。国内の通信会社に14年勤めたのち、外資系通信会社に転職、現在も勤務
|中。1998年に『ヒーロー・インタヴューズ』(パット・サマーオール/朝日新聞
|社)で翻訳家デビュー。『オメルタ――沈黙の掟』(マリオ・プーヅォ/早川書
|房)や『ミスティック・リバー』(デニス・ルヘイン/早川書房)など、話題作
|を次々に手がけている。
+――――――――――――――――――――――――――――――――――+
――翻訳の世界に入ることになったきっかけを教えてください。
「通信業界は動きが激しく、興味深い分野ですが、感動を“伝える”ことはできても
直接“与える”ことはできません。ガスや電気や水道にもはや誰も感動しないように。
たぶんそんなことで、コンテンツそのものにかかわる商売がしたくなったのだと思い
ます。小さい頃から本を読むのも、英語も好きでしたので、もしできればというつも
りで翻訳学校の通信講座を受講してみました。それが性に合い、翌年には田口俊樹先
生の通学講座に通いました。受講中に、リーディングや下訳などの仕事をいただきな
がら、最終的に出版社の編集の方に紹介していただきました。初めての作品は、朝日
新聞社から出た『ヒーロー・インタヴューズ』で、著名スポーツ選手数十名のインタ
ビューを収めたものです。内容はたいへん面白いのですが、長い作品を訳すスケジュ
ールの管理ができず、仕上がりが遅れて編集の方にご迷惑をおかけしました」

――会社勤めと翻訳の二足の草鞋を両立させる秘訣はなんですか?
「家族の協力と、あとは寝る時間を削るしかありません。マリオ・プーヅォの『オメ
ルタ』を訳したときは夏だったので、朝5時ぐらいに起きて、出社前に数時間訳しま
した。ディズニーランドのアトラクションの列に並びながら訳を読み直したこともあ
ります」

――どんなミステリ作家がお好きですか?
「このところの“ミステリ”の拡大解釈からすると、ドストエフスキーと言ってもい
いかもしれませんが、それはやめて、カール・ハイアセンでしょうか。文字だけで人
を笑わせるのは高度な技術だと思うので。あと、デニス・ル(レ)ヘイン(パトリッ
クとアンジーのシリーズ、『ミスティック・リバー』とも)にはとり憑かれたと言っ
てもいいほどです。この人はセンスが抜群です。他には、ディック・フランシス、ロ
バート・B・パーカー、ジェイムズ・クラムリー、ジョン・ル・カレ、ローレンス・
ブロック、ジェイムズ・エルロイなどが好きです」

――最新訳書、『フランクリンを盗め』(フランク・フロスト/ハヤカワ・ミステリ
文庫)が、この4月25日に発売になりましたね。
「ロサンジェルスに住む移民の若者4人がマフィアの金を盗んで追われる羽目になり、
主人公は現金と謎の多額の債権を隠しながらロスから故郷のギリシャへ逃げ、それを
マフィアの手下が追って……といった犯罪小説です。韓国人のマフィアの手下、ドイ
ツ人の殺し屋軍団、FBI、スイスの銀行家、ギリシャの島民たちと、登場人物も多
彩です。小説のかなりの部分を占めるクレタ島の場面も印象的です」

――今後の訳書のご予定をお聞かせください。
「田口師匠との共訳で、ローレンス・ブロックの小説作法本 "TELLING LIES FOR FUN
AND PROFIT" が出る予定です。また、『エイリアニスト』(中村保男訳/早川書房)
のケイレブ・カーが書いたSF的な小説 "KILLING TIME" やマリオ・プーヅォの本当
の遺作 "THE FAMILY" などの訳出が予定に入っています」

――加賀山さんにとって翻訳の魅力とはなんですか?
「繰り返しになりますが、直接、人の心を動かせるところです。雑誌《ナンバー》に、
西武ライオンズの松坂大輔投手が『ヒーロー・インタヴューズ』を読んでいると書い
てあったときには、何か知り合いにでもなったような(そんなわけないのですが)、
とても嬉しい気分になりました。今のサラリーマン生活でそんな体験はできません」
                         (取材・構成 山本さやか)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■注目の邦訳新刊レビュー ――『滝』『フェルメール殺人事件』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『滝』 "THE FALLS"
 イアン・ランキン/延原泰子訳
 ハヤカワ・ミステリ/2002.03.31発行 1900円(税別)
 ISBN: 415001714X

《リーバス警部、ミステリアスな棺と連続殺人事件の謎に挑む!》
 
 ジョン・リーバスはエジンバラのセント・レナーズ署に勤める50代の警部。妻や娘
と別れて孤独なフラット暮らしを送っている。リーバスの捜査は執念とタフさとカン
が頼り。アル中の気があり、上司に医者に行くよううるさく言われている。
 銀行経営者の娘である大学生のフリップが失踪する。タブロイド紙が騒ぎ立てる中、
リーバスは上司である元恋人ジルに命じられ、フリップの実家があるフォールズに行
く。人形の入ったミニチュアの棺が見つかったというのだ。さらにジルの友人である
博物館員ジーンによると、同様の棺があちこちで見つかっているという。棺は何らか
のメッセージを持つと考え、リーバスは未解決の行方不明や事故死を同時に調べる。
すべてに棺が絡んでいると見たリーバスは上司の意向を無視して勝手に捜査を進める。
 一方、女性刑事シボーンはフリップが生前夢中になっていたクイズを調べていた。
クイズマスターと名乗る人物がクイズの参加者に謎のフレーズをメールで送ってくる
のだ。それをクリアしないと次の段階へは進めない。シボーンは捜査のためゲームに
参加する羽目になる。
 クイズが段々とクリアされ、棺の手がかりが集まりつつあったある朝、リーバスた
ちは緊急の電話で起こされた――。

 リーバス警部シリーズの邦訳は『黒と青』以来6冊目。いかにもスコットランド的
な頑固者で、我が道を行くリーバスのかっこ良さは健在だ。リーバスにもようやく春
が訪れた。気になるお相手は、今や女性版リーバスとなってしまった感のあるシボー
ンか、博識な博物館員ジーンか、それとも……? 怪奇色を取り混ぜてあると帯には
あり、クイズマスターの送ってくるキーワードをはじめ、棺や検死医についての歴史
的エピソードにそれが現れているが、わたしにはむしろ高度で知的なパズルのような
作品に思えた。本作ではアイラ島産のシングルモルトウイスキーが小道具として登場
する。〈ラフロイグ〉や〈アルドベグ〉(〈アードベッグ〉)などをすすりながら読
むと、さらに楽しめること請け合い。

                                (大越博子)

----------------------------------------------------------------------------
『フェルメール殺人事件』 "CIRCLES OF CONFUSION"
 エイプリル・ヘンリー/小西敦子訳
 講談社文庫/2002.04.15発行 667円(税別)
 ISBN: 4062734192

《大おばの残した絵は本物のフェルメール? 接近してくる男たちの目当ては?》

 クレア・モントローズは、オレゴン州自動車局カスタムプレート課にいる。ヴァニ
ティプレートとも呼ばれる文字や数字を組み合わせた申請ナンバーに、語呂合わせで
不適切な意味がないか、登録済みではないかを審査するのが仕事だ。最初は申請者の
ユーモアを楽しんでいたが、10年もいるとうんざりしてしまう。仕事だけでなく、家
族や堅物の恋人エヴァンとの関係にも、うんざりしていたのかもしれない。
 そんなとき、大おばのキャディがクレアに遺産を残した。遺産といってもおんぼろ
のトレーラーハウスとそこに残されたガラクタの山だけだが、古いスーツケースの中
から、大おばの昔の日記と小さいが優美な肖像画を見つけだす。アンティークショッ
プで絵を見てもらうと、ニューヨークで専門家に鑑定してもらうように助言された。
この絵を入手したいきさつを知ろうと、クレアは日記を読みはじめ、終戦直後のドイ
ツで絵を手に入れたことを知る。エヴァンの反対を押し切り出かけたニューヨークで、
クレアは、鑑定家、画家と名乗るハンサムな男性たちと次々と知り合いになる。ふた
りとも絵に興味のあるようす。だが、何者かに尾行され、ホテルの部屋を荒らされる
に及んで、フェルメールの作品かもしれないこの絵を誰かが狙っていると確信する。
急いでオレゴンに戻ったクレアは、いっそう危険な状況に飛びこむことになる。

 堅実で平凡な人生を送るクレアが、絵の相続がきっかけで、とんでもない冒険の渦
中に。そういう時えてして、よく知っていると思っていた人間の違う面を見つけるこ
とになる。彼女も家族や恋人の別な一面を発見する。そして日記を綴る大おばが精神
的に成長を遂げるように、クレアも成長していく。さわやかな読後感を残す佳作であ
る。また、クレアの仕事であるヴァニティプレートの話が楽しい。作中いたるところ
に、ヴァニティプレート風の語呂合わせが挙げられているので、ぜひ挑戦を。
 クレアのシリーズは "SQUARE IN THE FACE"、"HEART-SHAPED BOX" と書きつがれ、
来年には3作目 "BURIED DIAMONDS" が出される予定。クレアのちょっと変わった家
族と彼女の恋愛がどうなっていくのか興味のひかれるところである。
                               (小佐田愛子)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ミステリ雑学 ―― ヨーホーが好きでどこが悪い?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「あんた、なにを飲む? ここでヨーホーなんてションベンは頼むなよ。みっともな
いから」
(『ウイニング・ラン』ハーラン・コーベン/中津悠訳/ハヤカワ文庫 p.227より)
----------------------------------------------------------------------------
 友人にこんなふうに牽制されないと、マイロンはバーでもヨーホーを注文しかねな
いほどこの飲み物の虜になっている。ヨーホーって、いったいどんな味なんだろう?
それほどおいしいのなら、ぜひ飲んでみたい! マイロン・シリーズを読むたびにそ
んな欲望を募らせている読者のために、今回はヨーホーを調べてみた。
 まずは、実際に飲んでみなければ話は始まらない。だが、調査は現物入手という第
一段階から行き詰まってしまった。ジム・キャリーもファンだというヨーホーは、ア
メリカ国内ならコンビニでも買えるほどポピュラーな商品だが、現在日本では販売さ
れていないのだ。ただ、「子どものころ野球場で飲んだ」という証言を得て調べてみ
たところ、25~30年ほど前には大洋漁業(現在のマルハ)が販売していたことがわか
った。当時は「ユーフー」と呼ばれていたという噂もあるが、大洋漁業は川崎球場を
ホームグラウンドにしていた大洋ホエールズ(現在の横浜ベイスターズ)の親会社だ
ったから、球場内でヨーホーが売られていたのかもしれない。
 その後、最近ハワイへ行った当メルマガスタッフがヨーホーを1本持ち帰ってくれ
たおかげで、対面の日を迎えることができた。黄色いラベルに鮮やかなブルーで書か
れた「yoo-hoo」の字が目立つボトルを手に取ると、底のほうになにやら焦茶色のもの
が沈殿しているのが見える。ラベルに書かれた「SHAKE」の指示どおり何度か上下に
振ってからキャップをひねり、緊張しながらひとくち……。う~む、甘い。それが最
初の感想だった。チョコレートドリンクということから想像していた濃厚なイメージ
に反し、薄めのミロに砂糖を足したような味で、ちょっと粉っぽい。ちなみに15.5オ
ンス入りボトルは高さ18センチ、直径7センチほどで、価格は1ドル90セントだった。
 さて、念願かなって味見を終えたところで、新たな疑問がわいてきた。毎日飲みた
いと思うほどヨーホーがおいしいかどうかは別として、マイロンのヨーホー好きはど
うして周囲の人間にばかにされているのだろう? なにしろアメリカと言えば、ビジ
ネスマンがコーンアイスクリームを食べながら歩いていようが、80歳のおじいちゃん
がバニラアイスをてんこ盛りにしたアップルパイを頬張っていようが、誰も好奇の目
を向けないお国がら。30代のマイロンがチョコレートドリンクを好きだっていいじゃ
ないか。そこで、ネイティヴにとってヨーホーはどんな存在なのか、40代のアメリカ
人男性に聞いてみた。すると、「ヨーホー? ありゃ、子どもの飲み物だよ。ヨーホ
ー好きの主人公が出てくるミステリがあるの? へえ~、変わってるねぇ」などと冷
めた意見をさんざん述べたあと、最後にポロリと「でも、僕も好きだけど」と本心を
漏らした。もしかしたら、アメリカ人にとってのヨーホーは、日本人にとってのカル
ピスのように、子どものころは好きだったけれど、おとなになってから大好きと公言
するのはちょっと恥ずかしい、そんな、なつかしい味なのかもしれない。
 ヨーホーをもっと知りたいという方は、公式サイト(*)をどうぞ。1920年代まで遡る
歴史やチョコレート以外のフレーバーの紹介など、さまざまな情報が満載されている。
 * http://www.drinkyoohoo.com/
                                (中西和美)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■スタンダードな1冊 ―― 孤独な少年と探偵の心の交流

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『初秋』ロバート・B・パーカー著/菊池光訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
"EARLY AUTUMN" by Robert B. Parker

 シリーズ化され、同じ主人公が何年も時には何十年にもわたって活躍する作品群が、
ミステリ小説の中には数多く存在する。ロバート・B・パーカーが描くボストンの探
偵スペンサーのシリーズもその一つだ。このシリーズは1973年の『ゴッドウルフの行
方』から、今年3月に発売になった "WIDOW'S WALK" まで、29の作品がある。今回は
その中から、1981年に発表された7作目の『初秋』を紹介する。この作品はパーカー
の代表作であり、味わい深い名作でもある。

 別れた夫のメルが連れ去った、息子のポールを取り返してほしい。それがパティ・
ジャコミンからの依頼だった。スペンサーはすぐにポールを見つけ出し、彼女のもと
へ連れ戻す。しかし数か月後、メルが人を雇ってポールを奪い返そうとしているとし
て、再びスペンサーは雇われる。パティたちにとって、息子は愛情を注ぐ対象ではな
く、相手への嫌がらせのための道具にすぎない。誰からも構われることのないポール
は、何事にも関心を持たず自分が何を食べたいかさえ分らない、生きる術を知らない
少年だった。両親と暮らすのはポールのためにならない。スペンサーは、彼を両親か
ら切り離し、1日も早く独り立ちできるようにしてやりたいと考える。そしてパティ
から、現在の恋人と旅行に行く間、ポールの面倒を見て欲しいと頼まれたスペンサー
は、さっそく自分の考えを実行に移すことにした。かくして、生きる力を身に付けさ
せるための、ポールへの訓練がはじまった。

 普通のハードボイルドだと思って読むと、肩透かしを食うことになる。それはこの
作品の主眼が少年の成長におかれ、一般に考えられているハードボイルドの要素はほ
んの付け足しにすぎないからだ。この点を受け入れるかどうかで、評価は真っ二つに
分かれるが、わたしはこの作品を評価している。物語の前半、中華料理店で何が食べ
たいかとスペンサーに聞かれ、「分からない」とポールが答える場面がある。これと
対照的な場面が物語の後半部分に出てくる。スペンサーからサンドウィッチを買って
こいと言われたポールが、2種類のサンドウィッチと自分のためのミルクを持って帰
ってくる。あまりにもさらりと書かれているので、人によっては読み飛ばしてしまう
かもしれない。しかしポールが成長したことを伝えるエピソードとして、わたしの印
象に強く残っている。さりげない描写であるにもかかわらず、作者の意図がはっきり
と伝わってくる。そういうところがわたしは好きなのだが、さてあなたはどうだろう
か? 一度手にとって読んでもらいたい。

 また『初秋』の続編とも呼べる作品がある。1991年に発表された18作目の『晩秋』
がそれで、成長しダンサーとなったポールが登場する。
                              (かげやまみほ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■速報 ―― MWA賞、アガサ賞受賞作発表

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●MWA賞受賞作発表
 アメリカ探偵作家クラブ主催による第56回MWA賞の各部門受賞作が発表された。
主要4部門の受賞作は以下のとおり。

▼最優秀長篇賞
 "SILENT JOE"     T・ジェファーソン・パーカー
 パーカーは昨年の "RED LIGHT" に続く2度目のノミネートでの受賞。デビュー以
来、おもにカリフォルニアを舞台としたサスペンスを発表している。邦訳は『渇き』
『凍る夏』(ともに渋谷比佐子訳/講談社文庫)ほか。本作では複雑な生い立ちを経
て郡保安官代理となった青年ジョーが、政治家である養父を殺した犯人を追う。

▼最優秀処女長篇賞
 "LINE OF VISION"   David Ellis
 本誌先月号(2002年4月号)のレビューを参照。

▼最優秀ペイパーバック賞
 "ADIOS MUCHACHOS"   Daniel Chavarria(translated by Carlos Lopez)
 キューバで仕事に励む売春婦アリシアがひとりのビジネスマンと出会ったことから、
犯罪の計画が始まる。猥雑ながら明るいパルプ・フィクション。著者はウルグアイ出
身で、過去にハメット賞スペイン語作品賞を受賞した。本作は初の英訳。

▼最優秀短篇賞
 "Double-Crossing Delancy" S・J・ローザン (MYSTERY STREET)

 その他の部門については以下のサイトで。
 http://www.mysterywriters.org/awards/edgars_02_winners.html

●アガサ賞受賞作発表
 マリス・ドメスティック主催によるアガサ賞のほうも、受賞作が発表された。主要
部門の結果は以下のとおり。

▼最優秀長篇賞
 "MURPHY'S LAW"    Rhys Bowen
 ウェールズ在住の著者による歴史ミステリ。20世紀初頭、アイルランドからアメリ
カに移住しようとする女性モリーを待ち受けていたのは、殺人の嫌疑という試練だっ
た。著者はほかに警官エヴァンズを主人公としたシリーズを5作発表している。

▼最優秀処女長篇賞
 "BUBBLES UNBOUND"   Sarah Strohmeyer
 バブルズ・ヤブロンスキーは記者を夢見る美容師。ある日、待ちに待ったチャン
スが訪れるが……。奇抜なヘアスタイル、はじけたキャラクターのバブルズが魅力
をふりまく。米国では「第2のステファニー・プラム」との呼び声も高い。

▼最優秀短篇賞
 "The Would-Be Widower" キャサリン・ホール・ペイジ(MALICE DOMESTIC 10)

 その他の部門については以下のサイトで。
 http://www.malicedomestic.org/
                                (影谷 陽)
―――――――――――――――――――――――――――――――――

◇連載記事で取りあげた本の一覧はこちらで
http://www15.u-page.so-net.ne.jp/ya2/y-kage/mag/regular.html


―――――――――――――――――――――――――――――――――
■編集後記■
 気がついたらもうすぐサッカーW杯。スポーツを扱ったミステリは数あれど、意外
にサッカーのミステリは少ないですね。こんなおもしろいサッカー・ミステリを知っ
ているよ、というかたがいらっしゃったら、どうぞ編集室までご一報を。  (片)


*****************************************************************
 海外ミステリ通信 第9号 2002年5月号
 発 行:フーダニット翻訳倶楽部
 発行人:うさぎ堂 (フーダニット翻訳倶楽部 会長)
 編集人:片山奈緒美
 企 画:板村英樹、宇野百合枝、大越博子、影谷 陽、かげやまみほ、
     小佐田愛子、中西和美、松本依子、三角和代、山田亜樹子、
     山本さやか
 協 力:@nifty 文芸翻訳フォーラム
     小野仙内
 本メルマガへのご意見・ご感想 : whodmag@office-ono.com
 フーダニット翻訳倶楽部の連絡先: whodunit@mba.nifty.ne.jp
 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/whodunit/index.htm
 配信申し込み・解除/バックナンバー:
 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/whodunit/magazine/index.htm

 ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2002 Whodunit Honyaku Club
*****************************************************************
PR
フリーエリア
ブログ内検索
バーコード
アクセス解析
カウンター
忍者アナライズ
忍者ブログ [PR]